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サル痘(Monkeypox)

疫学

  • ・サル痘は、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルス(monkeypox virus)による急性発疹性疾患であり、本邦では4類感染症に位置づけられている。
  • ・1970年にヒトでの感染が発見されて以来、中央アフリカから西アフリカにかけて流行している。
  • ・サル痘ウイルスはコンゴ盆地クレードと西アフリカクレードの2系統が確認されている。コンゴ盆地クレードによる感染例の死亡率は10%程度であるのに対し、西アフリカクレードによる感染例の死亡例は1%程度と報告されている。
  • ・2022年5月以降、欧州や米国等、これまで流行がみられなかった複数の国で渡航歴がなくサル痘患者との疫学的リンクの確認できない患者が確認されている。
  • ・今回の流行は西アフリカクレードによるものであり、男性間の性交渉を行う者(Men who have Sex with Men: MSM)での感染事例が多い。
  • ・2022年以降の流行では従来の流行で得られた臨床的知見と必ずしも一致しない点が見られている。よって臨床経過や重症化割合に関しても従来の報告と差異がある可能性があり、注意が必要である。
  • ・2022年7月8日現在、アフリカ地域での3例を除き、死亡例は確認されていない。

臨床症状

潜伏期間

  • ・潜伏期は通常6-13日(最大5-21日)である。今回の流行に基づく推計では、中央値は8.5日と報告されている。

古典的な症状

  • ・発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの前駆症状が0-5日程度持続し、発熱の1-3日後に皮疹が出現する。
  • ・リンパ節腫脹は顎下、頸部、鼠径部に見られる。天然痘や水痘では、通常リンパ節腫脹を伴わないので、リンパ節腫脹の有無は鑑別において重要と考えられてきた。
  • ・皮疹は典型的には顔面から始まり体幹部へと拡大する。各皮疹は、原則として紅斑→丘疹→水疱→膿疱→結痂→落屑と段階が移行すると報告されている。
  • ・サル痘では手掌や足底にも各皮疹が出現することなどが、水痘との鑑別に有用とされる。

今回の流行での症状

  • ・発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの前駆症状が必ずしも認められない事例が報告されている。
  • ・今回の流行では、皮疹の性状が従来の報告とは異なる場合がある。具体的には病変が会陰部・肛門周囲や口腔などの局所に集中しており、全身性の発疹が見られない場合がある。口腔内や陰部の粘膜疹が先行することもある。
  • ・またサル痘患者の体に現れる皮疹は、ある一時点においてすべて同一段階の症状であると言われてきたが、今回の流行では異なる段階の皮疹が同時にみられることがあり、例えば、紅斑と丘疹が同時に見られることがある。
  • ・肛門直腸病変による肛門痛・テネスムス・下血や、陰茎・尿道病変による排尿困難をきたした事例も報告されている。

学術論文のデータ

  • ・英国からの報告では経過中に気分が落ち込む等の気分障害を発症した事例が報告されている。これがサル痘そのものの影響か、隔離の影響か原因は不明である。また、ナイジェリアからの報告では2018年に入院した患者のうち4分の1に不安や鬱などによりカウンセリングが必要になった事例が報告されており、医療管理上注意が必要である。
  • ・2022年の流行中に英国で診断された54例の報告では、年齢の中央値は41歳であり、25人に渡航歴があった。54人中36人(67%)が疲労または嗜眠を、31人(57%)が発熱を訴えていた。10人(18%)では前駆症状はみられなかった。全ての患者が皮膚病変を呈し、そのうち51人(94%)が肛門や性器に病変を有していた。54人中37人(89%)が複数の解剖学的部位に皮膚病変を有し、4人(7%)が口腔や咽頭に病変を有していた。リンパ節腫脹を有していたのは54人中30人(55%)であった。患者の4人に1人が同時に別の性感染症と診断されていた。54人中5人(9%)が、主に抗生物質介入または鎮痛を必要とする疼痛または限局性細菌性蜂巣炎のために、病院へ入院した。この54名の中には死亡例はなかった。

合併症・重症化リスク因子・予後

  • ・皮膚の二次感染、気管支炎・肺炎、敗血症、脳炎、角膜炎などの合併症を起こすことがある。英国からの報告では踵部や大腿部の軟部組織に膿瘍を形成したが、膿瘍の吸引液の細菌培養および16S-ribosomalRNAのシーケンシングは陰性であり、サル痘ウイルスのDNAのみが検出された事例が報告されている。
  • ・多くの場合2-4週間症状が持続し自然軽快するが、曝露の程度、患者の健康状態、基礎疾患などにより重症化することもある。
  • ・従来の報告では、免疫不全を有する者、小児、妊婦や授乳中の者、アトピー性皮膚炎患者、剥脱性皮膚炎患者では重症化リスクが高いと考えられている。
  • ・2022年7月8日現在、アフリカ地域での3例以外、死亡例は確認されておらず、今回の流行での致命率はこれまで報告されている致命率よりも低い。
  • ・一方で、疼痛管理や皮疹からの二次感染などにより入院を要する事例が報告されている。

サル痘を疑うポイント

  • ・サル痘を疑うポイントは、①皮疹(特に性器や肛門周囲)、②発熱やリンパ節腫脹などの全身症状、③海外渡航歴や性交渉歴がある、などである。
  • ・今回の流行の感染例においてMSMが多数を占めるとされているが、女性の症例も報告されており、性別によってサル痘の可能性を除外できるわけではない。
  • ・従来の典型的なサル痘の臨床経過と異なり、今回の流行では以下の点に注意する必要がある。
    • ・今回の流行の感染例においては、MSMが多数を占めるとされている。しかし女性の症例も報告されており、性別によってサル痘の可能性を除外できるわけではない。
    • ・従来の報告と異なり、異なる段階の皮疹が同時にみられることがある。
    • ・発熱やリンパ節腫脹などの全身症状を伴わずに会陰部や肛門周辺の皮疹のみで発症することがある。
    • ・肛門痛、テネスムス、下血、排尿困難を来した事例も報告されている。
  • ・他の性感染症との重複感染が起こりうる。よって他の疾患との診断がついても、サル痘の同時感染を除外できるわけではない。
  • ・最近のサル痘の症例報告では、サル痘の診断が確定するまでに、性器や肛門周囲の疼痛のある潰瘍性病変に対して臨床的に性器ヘルペスや梅毒を想定した治療が行われていた。そのため、サル痘以外の疾患として治療介入後も病変が改善しない場合は、サル痘を疑う必要がある。

鑑別疾患

性器・肛門周辺の皮膚病変

性器ヘルペス、梅毒、帯状疱疹、毛嚢炎、伝染性軟属腫など

直腸炎

淋菌、クラミジア、梅毒、性器ヘルペスなど

全身の発疹

水痘、麻疹、風疹、梅毒、急性HIV感染症、カポジ水痘様発疹症、手足口病、伝染性単核球症、ツツガムシ病、日本紅斑熱など

※多数ある鑑別疾患の中で、サル痘との重要な鑑別疾患(天然痘、水痘、梅毒、性器ヘルペス)の臨床的特徴を表1に示す。
※サル痘と鑑別疾患(性器ヘルペス、梅毒、水痘、伝染性軟属腫)の臨床写真を別添1に示す。

サル痘を疑う臨床的状況の事例

  • ・20代女性、1ヶ月前にナイジェリアに渡航し、帰国直前に現地でリスに噛まれた。帰国後、3日間続く発熱、リンパ節腫脹、その後に顔面に皮疹を認め受診。
  • ・30代女性、海外渡航歴なし、この数週間で複数の男性と性交渉歴あり。発熱はないが、数日前から全身に皮疹を認めたため受診。水痘・麻疹・風疹は既感染もしくはワクチン接種歴あり。HIV抗体検査・梅毒の血清学的検査陰性。
  • ・30代男性、MSM、海外渡航歴なし、この数週間で複数の男性と性交渉歴あり。3日間続く発熱、リンパ節腫脹、その後に顔面に皮疹を認め受診。
  • ・40代男性、海外渡航歴なし、2週間前に初対面の皮疹のある女性との性交渉歴あり。数日前から痛みをともなう性器・肛門の皮疹を認めたため受診。梅毒の血清学的検査陰性。性器ヘルペスが疑われバラシクロビルを処方されたが、数日後の再診時にも疼痛や皮膚病変は増悪傾向。

保健所への届出、疑い例及び接触者に関する暫定症例定義

  • ・サル痘は、我が国では感染症法上の4類感染症に位置づけられており、当該感染症の患者もしくは無症状病原体保有者を診断した医師、当該感染症により死亡した者及び当該感染症により死亡したと疑われる者の死体を検案した医師は、ただちに最寄りの保健所への届出を行う必要がある。
  • ・2022年7月8日時点における、サル痘を疑う患者(以下「疑い例」という。)及びその接触者に関する暫定症例定義は下記である。

(1)「疑い例」の定義:下記の①~③全てを満たす者を指す。

① 説明困難*1な急性発疹を呈している。
(*1) 水痘、風疹、梅毒、伝染性軟属腫、アレルギー反応等のその他の急性発疹を呈する疾患によるものとして説明が困難であることをいう。ただし、これらの疾患が検査により否定されていることは必須ではない。

② 次の1つ以上の症状を呈している。
 ・発熱(38.5℃以上)
 ・頭痛
 ・背中の痛み
 ・重度の脱力感
 ・リンパ節腫脹
 ・筋肉痛

  • ③ 次のいずれかに該当する。
    • ・発症21日以内にサル痘常在国やサル痘症例が報告されている国に滞在歴があった。
    • ・発症21日以内にサル痘常在国やサル痘症例が報告されている国に滞在歴がある者と接触(表1レベル中以上)があった。
    • ・発症21日以内にサル痘の患者又は①及び②を満たす者との接触(表1レベル中以上)があった。
    • ・発症21日以内に複数または不特定の者と性的接触があった。
    • ・臨床的にサル痘を疑うに足るとして主治医が判断をした。

(2)「接触者」の定義:サル痘の患者(確定例)又は疑い例と、表2に示す接触状況があった者を指す。

感染経路

  • ・アフリカに生息するリス等の齧歯類をはじめ、ウサギ、サルなどウイルスを保有する動物との接触により人に感染する。
  • ・また、感染した人や動物の皮膚の病変・体液・血液との接触(性的接触を含む。)、患者との接近した対面での飛沫への曝露によってヒトからヒトに感染する。
  • ・皮疹の痂皮をエアロゾル化することで空気感染させた動物実験の報告があるものの、実際に空気感染を起こした事例は確認されていない。

感染対策

  • ・サル痘の主な感染対策は接触感染対策と飛沫感染対策である。接触感染対策では、特に皮疹や痂皮、浸出液などとは直接的に接触しないように注意する。また、痂皮や浸出液で汚染された衣類やリネンなど、物品を介した感染にも注意する。
  • ・サル痘が空気感染を起こすことは確認されていないが、麻疹や水痘などの空気感染を起こす感染症との臨床的な鑑別が困難であるため、それらが否定できない間は空気感染予防策の実施が求められる。
  • ・医療従事者がサル痘確定患者に接する場合(検体採取時含む)は、 N95マスク、手袋、ガウン、眼の防護具を着用し(患者のリネン類を扱う者や清掃担当者も同様とする)、患者を換気良好な部屋に収容する。
  • ・手洗い、アルコールによる手指衛生を頻回に行う。
  • ・患者が使用したリネン類は診断が確定するまでなるべく触れずに管理し、診断が確定してから適切な処理を行う。
  • ・確定患者のリネン類は病変や体液からの感染性粒子が飛散する可能性があるためビニール袋等に入れて運搬し洗濯機に入れる。
  • ・洗濯後は再利用可能である。
  • ・患者が滞在した環境は通常に清掃を行い、その後消毒(消毒用エタノール等を用いる)を行う。
  • ・疑い例や確定患者には可能な限りサージカルマスクを着用させ、皮膚病変はガーゼなどで被覆する。
  • ・詳細な方法に関しては「サル痘患者とサル痘疑い例への感染予防策」を参照。

隔離解除

  • ・全ての皮疹が痂皮となり、全ての痂皮が剥がれ落ちて無くなるまで(概ね21日間程度)は上記の感染対策を継続する。

検査

  • ・サル痘患者の血液検査所見に関する知見は乏しい。
  • ・類似疾患である天然痘では、前駆期で白血球増多、血小板減少が、発疹期で白血球増多がみられることがある。
  • ・重症例ではDICの所見がみられる。

診断

  • ・水疱や膿疱の内容液や蓋、あるいは組織を用いたPCR検査で遺伝子を検出する。(詳細な検体採取方法に関しては「サル痘に関する情報提供及び協力依頼について」を参照。)
  • ・ウイルス分離・同定や、ウイルス粒子の証明、蛍光抗体法などの方法も知られているが、抗原検査や抗体検査は交差反応が多く特異的な診断には至らない。

治療

  • ・対症療法が原則である。
  • ・本邦で利用可能な薬事承認された治療薬はない。
  • ・欧州においては、特異的治療薬としてテコビリマットが承認されており、我が国においても同薬を用いた特定臨床研究が実施されている。
  • ・合併症として細菌性肺炎や蜂窩織炎を発症する場合があるため、適宜治療を行う。
  • ・病変による疼痛が強い場合があるため、適宜鎮痛治療を行う。
  • ・不安や鬱などの気分の障害を訴える場合があるため対応が必要となりえることに留意する。

曝露後予防

  • ・WHOは、サル痘曝露後予防として天然痘ワクチンを推奨している。
  • ・感染性のある期間(皮疹出現5日前から皮疹が消失するまで)に、適切な個人防護具を着用せずにサル痘患者と接触した、あるいは患者由来の臨床検体を取り扱った場合には天然痘ワクチンの接種を検討する。
  • ・曝露後4日以内の接種であれば発症予防,14日以内の接種であれば重症化予防が期待できるとされる。
  • ・我が国においては、曝露後予防の目的で天然痘ワクチンを接種する臨床研究が実施されている。

参考文献

表1.サル痘との重要な鑑別疾患(天然痘、水痘、梅毒、性器ヘルペスウイルス感染症)の臨床的特徴

表をクリックで拡大します

別添1.サル痘とその鑑別疾患の臨床写真

サル痘

参考サイト. UK HAS. 2022 [2022/7/8閲覧]

  • その他に、以下の論文等で提示されている写真を参照
  • ・Patrocinio-Jesus R, et al. Monkeypox Genital Lesions. N Engl J Med. 2022 Jun 15. doi: 10.1056/NEJMicm2206893. PMID: 35704421
  • ・Basgoz N, et al. Case 24-2022: A 31-Year-Old Man with Perianal and Penile Ulcers, Rectal Pain, and Rash. N Engl J Med. 2022 Jun 15. doi: 10.1056/NEJMcpc2201244. PMID: 35704401

性器ヘルペス

参考サイト. DermNet NZ. [2022/7/8閲覧]

梅毒

参考サイト.DermNet NZ. [2022/7/8閲覧]

水痘

参考サイト.DermNet NZ. [2022/7/8閲覧]

伝染性軟属腫

参考サイト.DermNet NZ. [2022/7/8閲覧]

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これまでの実績

2018年2月
タイ帰国後の重症肺炎、マラリア、メリオイドーシス疑い
2018年2月
PPE着脱の指導
2018年2月
コンゴ民帰国後の発熱、マラリア検査希望
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