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野兎病(Tularemia)

概要

グラム陰性桿菌である野兎病菌(Francisella tularensis)による感染症である。自然界での保有動物であるウサギ、マウス、ラット、ビーバーなどから、直接もしくは節足動物を介して感染する。亜種として、subsp. tularensis、holarctina、mediaasiatica、novicidaの4種があり、北米に分布するsubsp. tularensisが最も病原性が強い。

症状

潜伏期間は3日~7日程度が多いが、2週間に及ぶこともある。

最も多い皮膚からの感染の場合、野兎病菌の侵入部位に潰瘍形成をし、高熱とともに所属リンパ節の腫脹が起こる潰瘍リンパ節型や所属リンパ節の腫脹と発熱のみを来すリンパ節型が多いが、侵入門戸により眼、鼻、扁桃の炎症と所属リンパ節腫脹を伴うことがある。また、吸入による感染では胸痛を伴う急性肺炎を来す肺炎型を引き起こす。また、意識障害、発熱、髄膜刺激徴候など全身症状のみを示すチフス型も存在するなど、病型は多岐にわたる。肺病変は敗血症からの二次感染でも起こり得る。

感染経路

一般的には感染動物から吸血したダニやカ、ハエによる吸血や、保有動物の?皮や調理などでの直接接触による。海外では汚染された飲料水からの経口感染、塵芥の吸引による呼吸器感染、吸血昆虫による虫刺症に伴う感染の報告がある。ヒト-ヒト感染の報告はない。バイオテロにおいては粉末もしくはエアロゾル化した菌の散布による飛沫/空気感染および飲料水などの汚染による経口感染が経路として考え得る。国内においても2008年、2014年に報告があり、注意が必要である。

感染対策

4類感染症に指定されており、感染症指定病床での診療を行う必要はない。

野兎病はヒト-ヒト感染を起こさないことから、隔離や特殊な感染対策をとる必要はなく、標準予防策で十分である。

検査

一般的な血算、生化学検査では特異的所見を示さないが、尿蛋白や肝障害を伴うことがある。肺炎型では胸部X線で浸潤影や胸水貯留を認める。

診断

患者からの菌の分離同定により確定診断される。自動細菌同定機器を用いての誤判定が散見されるため注意が必要である。培養の際はEugon血液寒天培地、IsoVitaleXを添加したチョコレート寒天培地などを用いる。

そのほか、急性期と回復期でのペア血清で特異抗体の4倍以上の上昇、単回の抗体価で80倍以上の場合も診断となるが、Brucella属菌、Yersinia属菌との交差反応性がある。

治療

アミノグリコシド系、テトラサイクリン系が選択肢となる。In vitroのデータではシプロフロキサシンなどのフルオロキノロン系の有効性が示唆される。

治療レジメンは付録を参照のこと。

予防内服

一般的に曝露前予防は推奨されない。接触感染が主であるため、野生動物の取り扱いの際に手袋などの防護具の使用が推奨される。暴露後予防については、暴露後24時間以内に開始し、14日間継続する。自然界でのリスク動物への曝露では推奨されない。

具体的なレジメンは別記を参照する。

保健所への届出

感染症法に基づく4類疾患として、疑似症例もしくは確定症例を診断した際は直ちに保健所に報告する義務がある。

付録 治療および予防内服のレジメンについて

治療レジメン

推奨レジメン

①ストレプトマイシン 1g筋注 1日2回(小児は15mg/kg筋注 1日2回)
②ゲンタマイシン 5mg/kg筋注or静注 1日1回(小児は2.5mg/kg筋注 or 静注 8時間毎)

代替レジメン

①ドキシサイクリン 100mg 1日2回 静注(体重45kg以下の小児は2.2mg/kg 1日2回 静注)
②シプロフロキサシン 400mg 1日2回 静注(小児は15~20mg/kg(上限1000mg/日) 1日2回 静注)
③クロラムフェニコール 15-25mg/kg 1日4回静注

患者の大量発生や、国内を含めた非流行地域での発生はバイオテロリズムが想定される。

この場合は、人為的な耐性誘導の可能性があるため、上記抗菌薬から系統の異なる、2剤以上を併用することが検討される。

また、実際の診療においては野兎病以外のカバーも検討される。

予防レジメン

①ドキシサイクリン 100mg 1日2回内服(体重45kg以下の小児は2.2mg/kg 1日2回内服)
②シプロフロキサシン 500mg 1日2回内服(小児は15~20mg/kg(上限1000mg/日) 1日2回内服)

薬剤感受性検査結果が判明するまでは、上記2剤の併用を推奨する。

参考文献

マニュアル ダウンロード

診療マニュアル

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