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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する一般的事項

1.CRE、CPE、MBL とは

腸内細菌科細菌(表 1)が、グラム陰性菌による感染症の治療において最も重要な抗 菌薬であるメロペネム等のカルバペネム系抗菌薬および広域βラクタム剤に対して耐 性を獲得したものがカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)と呼ばれる[1]。

表1 腸内細菌科細菌
検出頻度が多い腸内細菌科細菌
Escherichia、Klebsiella、Providencia、Serratia、Enterobacter、Proteus、Salmonella、Shigella
その他の腸内細菌科細菌
Alishewanella、Cedecea、Leminorella、Rahnella、Alterococcus、Citrobacter、Moellerella、Raoultella、Aquamonas、Cronobacter、Morganella、Samsonia、Aranicola、Dickeya、Obesumbacterium、Sodalis、Arsenophonus、Edwardsiella、Pantoea、Tatumella、Azotivirga、Erwinia、Pectobacterium、Trabulsiella、Blochmannia、Ewingella、Phlomobacter、Wigglesworthia、Brenneria、Grimontella、Photorhabdus、Xenorhabdus、Buchnera、Hafnia、Poodoomaamaana、Yersinia、Budvicia、Kluyvera、Plesiomonas、Yokenella、Buttiauxella、Leclercia、Pragia
Washington State Department of Health. CRE Reporting and Surveillnace Guidelinesより

腸内細菌科細菌の菌種がカルバペネム耐性を獲得する分子メカニズムは以下の 2つに大別される。[2] 感染症は、

① 何らかのβ-ラクタマーゼの産生量の増加と外膜蛋白(ポーリン)の変化
② 何らかのカルバペネム分解酵素(カルバペネマーゼ)の産生:本邦で問題

厚生労働省の届出による(後述)CRE の定義は薬剤感受性のみで定義される。カル バペネマーゼ産生の有無は不要で、しばしば混同されるので注意が必要である。本 邦で集団事例として問題となっている②をカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (CPE)と表現する。カルバペネマーゼは大きく分けてメタロ型カルバペネマーゼ(メタ ロ-β-ラクタマーゼ:MBL)とセリン型カルバペネマーゼに分かれ、さらに MBL を産生 するカルバペネマーゼ遺伝子は、本邦の株で多数を占める IMP 型や、海外分離株で 多く認める NDM 型、VIM 型に分かれる。一方セリン型のカルバペネマーゼを産生する 遺伝子型は、KPC 型と OXA-48 型に分かれる(表 2)[2]。現在本邦では、この IMP 型 のカルバペネマーゼ遺伝子を有する MBL 産生の CPE が医療機関における集団事例 として問題になっており、以下でさらに言及する。

表2 腸内細菌科細菌で報告のある主なカルバペネマーゼ遺伝子
カルバペネマーゼAmblerの分類遺伝子型特 徴
メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL) クラスB IMP型 ・1991年に日本で発見された
・多くは緑膿菌だが、腸内細菌科細菌でも検出され本邦で問題となっている
・アジア地域からの報告が多い
・全ゲノム解析によるIMP-1型はIMP-1とIMP-6に識別される
NDM型 ・2007年にインド系の患者より分離された
・主に肺炎桿菌、大腸菌で検出される
・バンクラディシュ、パキスタン、欧州地域に広がる
VIM型 ・1997年にイタリアで発見された
・多くは緑膿菌だ、肺炎桿菌でも検出される
・欧州地域を中心に広がる
セリン-β-ラクタマーゼ クラスA KPC型 ・1990年代後半に米国で報告
・主に肺炎桿菌で検出される
・米国、イスラエル、ギリシャ等の欧州地域、中国の南東部沿岸地域にも広がる
  クラスD OXA-48型 ・2001年にトルコで報告
・主に肺炎桿菌で検出される
・欧州地域を中心に広がる

2.IMP 型とは

IMP 型とは、MBL を産生するカルバペネマーゼ遺伝子の 1 つの型である。IMP 型 MBL の遺伝子は、主として緑膿菌等のブドウ糖非発酵グラム陰性菌から検出され伝達性 のプラスミド上に存在する。このプラスミドにより、腸内細菌科細菌の同属の菌種間の みならず、属が異なる菌種間にもカルバペネマーゼ遺伝子が伝達される。IMP 型は、 VIM 型や NDM 型と比べてカルバペネムを分解する活性が高い点が特徴である。IMP 型は、本邦で多く認める IMP-1の他に、アミノ酸配列の異なる 40 種以上の亜型が報 告されている。IMP-1 型には、IMP-1 とアミノ酸配列が 1 箇所のみ変化した IMP-6 の 2 つにさらに分けられ、IMP-1 型はプライマーを用いた PCR 検査で検出可能だが、 IMP-1 と IMP-6 の識別にはシークエンス解析が必要で限られた施設のみでしか実施できない。この IMP-6 産生株は、イミペネムに耐性と判定されない場合があるので注 意が必要である[2]。

3.診断と検査

図 1 に IMP 型 MBL 産生腸内細菌科細菌の診断方法のフローチャートの 1 例を示す。

まずは、MBL 産生の有無の検査を行う腸内細菌科細菌の識別が問題となる。CRE の 届出としては、メロペネムに耐性であること、またはイミペネムとセフメタゾール両薬剤 に耐性であることの 2 通りが定められている[3]。一部の菌株ではカルバペネム感 受性があり見落としてしまう場合も想定されるので、カルバペネムよりも MBL の検出 感度が高いことが報告されている CAZ の感受性も同時に行い、CAZ に耐性、もしくは メロペムとイミペネムのいずれかに耐性である菌株に MBL 産生の有無の検査を行う ことが望ましい[4]。感受性の検査を施行する際に CLSI によるブレイクポイント規定文 書を参考とする。2009年に報告されたM100-S19[5]と、2010年に報告された100-S20 [6]以降では、腸内細菌科細菌のカルバペネム系抗菌薬におけるブレイクポイントが 大きく異なるため、どのパネルを使用しているかの注意が必要である(表 3)。

表3 腸内細菌科細菌のカルバペネム系抗菌薬に関するブレイクポイント
薬 剤CLSI M100-S19 (2009年)CLSI M100-S20 (2010年)
感受性中 間耐 性感受性中 間耐 性
イミペネム ≦4 8 ≦16 ≦1 2 ≦4
メロペネム ≦4 8 ≦16 ≦1 2 ≦4

MBL 産生の有無の検出については EDTA や SMA(メルカプト酢酸)によるディスクを 用いた検査が行われるが[7]、方法に関しては、専門書・専門 HP を参照されたい。

腸内細菌科細菌の同定、MBL 産生の判定までは多くの医療機関で実施可能と思わ れるが PFGE パターン、IMP 型、IMP 遺伝子の検査は限られた機関でしか実施してい ない。2017 年 3 月 28 日時点で、CRE の届出を受けた自治体では,医療機関に対し て菌株の提出を求め、耐性遺伝子の解析を行うことになったので、行政検査として詳 細な検査の実施が可能である[8]。

4.感染経路

便やその他の体液に CPE を保菌している限り、ほかの人に感染伝播させる可能性が ある。一度 CPE が陽性となった症例は長期間保菌する可能性がある。CPE を獲得、 感染伝播するリスクは、侵襲的処置、カテーテル留置、食事・排便・入浴の介助が必 要な患者で高い。医療環境(同室者、感染対策が行われる前に CPE 症例と医療従事 者を共にした人)において疫学的リンクを有する患者も CPE 獲得のリスクが高くなると される。

CPE は組織や体液、特に便の直接接触や皮膚の接触により伝播し、医療機関では 主に医療従事者の手指を介して広がっていく。また、医療器具、ベッド柵、コンピュー ターキーボードなどの物品を介する伝播もある。物品や環境、特にE.cloacaeに関して は湿潤環境に数か月間生存することができ、この点が感染対策を困難にする一因で あるとされている[1]。また、菌種、抗菌薬感受性、PFGE パターンが異なっていてもプ ラスミドによって同一の耐性遺伝子が水平伝播していくこともある。

5.臨床症状

医療機関に長期入院し、抗菌薬、侵襲的医療行為、人工呼吸器、カテーテル留置等 の濃厚な医療を受ける患者に発症する傾向を示している[9]。疾患としては菌血症、 尿路感染症、創部感染症、腹腔内感染症、肺炎等の院内感染症を起こし高い致命率 や長期の入院期間と関連がある。

6.リザーバー

ヒトをはじめとする多くの哺乳類や鳥類の腸管に保菌されている。一般的に上記のよ うな医療曝露歴と関連があり、衰弱した重症患者によく認める。また物品や環境、特 にE.cloacaeに関しては湿潤環境に数か月間生存することができ、この点が感染対策 を困難にする一因である[1]。

7.潜伏期間

CPE は感染症を発病することなく腸管に保菌されるので、潜伏期間は明らかに定義さ れていない[1]。

8.濃厚接触者の定義

医療機関内では、CPE、non-CPE 共にアウトブレイクを起こす。CPE は一般的には、 医療従事者の手指を通じて広がり、ベッド柵、コンピューターのキーボードのような器 物にも汚染する。CPE 検出例と疫学的リンクのある人は、CPRE 獲得のリスクがあり、 検出された人は、何らかの感染対策に不備があったと考えられるべきである。濃厚接 触者に対する曝露リスクは症例毎で異なるので専門家に相談することをすすめる。医 療機関外の市中における感染伝播のリスクは明らかでない[1]。

下記が医療感染に関連する CPE の濃厚接触者の一例である。

・CPE 症例の同室者、同病棟者
・十分な感染対策が行われる前に CPE 検出例と医療従事者(リハビリ含む)を共に した人
・十分な感染対策が行われる前に CPE 検出例と、透析室、救急室、手術室、ICU 等 の場所を共にした人

9.治療、感染対策

医療機関における薬剤感受性試験、使用可能な抗菌薬、症例の基礎疾患や症状に 応じた治療や実施または強化すべき感染対策について感染症専門医へ適宜相談し ながら実施する。保菌者は治療不要だが、感染者と同様の感染対策が必要とされ る。

10.感染症法に基づく届出

平成 26(2014)年 9 月 19 日の感染症法施行規則改正により、CRE 感染症が 5 類全数 把握疾患となった。届出基準は分離された腸内細菌科細菌(表 1)の薬剤耐性性に基 づいており、メロペネムに耐性であること、またはイミペネムとセフメタゾール両薬剤に 耐性であることの 2 通りが定められている [2] 。保菌者については届出対象ではな いが、感染対策上、院内での情報共有は重要であり、必要に応じて保健所へも情報 提供する。

11.届出に基づく日本における発生状

2015 年第 1 週から、第 53 週までに届けられた CRE 感染症は 1,669 例で、このうち報 告時点での死亡例は 59 例(3.5%)であった。性別は男性が 1,042 例(62.4%)、診断時 の年齢は中央値76 歳(四分位値66-83 歳)で、65 歳以上の高齢者が 1,307 例(78.3%) であった(2015 年 1 月 8 日集計)[10]。届出例は感染症例のみであるので、図 2 に示 すように、それ以上の保菌例、同定されていない保菌例の存在があることに注意す べきである。

12.参考

  1. Washington State Department of Health Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae Reporting and Surveillnace Guidelines. 2015
  2. 国立感染症研究所. カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症. IASR. 2014.
  3. 健感発 0909 第 2 号平成 26 年 9 月 9 日 厚生労働省医政局地域医療計画課長 通知「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 12 条第1項 及 び 第 14 条 第 2 項 に 基 づ く 届 出 の 基 準 等 に つ い て ( 一 部 改 正 ) 」 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/pdf/0912-1.pdf
  4. Arakawa Y, et al., J Clin Microbiol. 38(1): 40-3, 2000
  5. Clinical and Laboratory Standards Institute: Performance standards for antimicrobial susceptibility testing; nineteenth informational supplement, CLSI document M 100-S19, 2009
  6. Clinical and Laboratory Standards Institute: Performance standards for antimicrobial susceptibility testing; nineteenth informational supplement, CLSI document M 100-S20, 2010
  7. Livermore DM, et al. J Antimicrob Chemother 60 (6): 1375-79, 2007
  8. 健感発 0328 第 4 号平成 29 年 3 月 28 日 厚生労働省健康局結核感染症課長通知「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症等に係る試験検査の実施について」
  9. Hayakawa K, et al. Antimicrob Agents Chemother. 58(6) 3441-50, 2011
  10. 国立感染症研究所. 感染症法に基づくカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の届出状況(2015 年 1~12 月). IASR

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