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エムポックス 診療の手引き 第2.0版

はじめに

 「サル痘に関するハイリスク層への啓発及び診療・感染管理指針の作成のための研究」班は,2023 年12 月末に『エムポックス診療の手引き第1.0 版』を公開しました.その後,エムポックスの診療に関わる学会から,『手引き1.0 版』についての意見をいただき,ここに第2.0 版を作成いたしました.年度末の完成になりましたが,国内の疫学情報は2024 年3 月1 日集計時点のデータを掲載することができ,それを見ると低レベルでの感染伝播は変わらず持続しています.国外でも同様の傾向が続いており,インバウンド/ アウトバウンドの増加とともに国内へ持ち込まれる可能性があり注意が必要です.
 本『手引き2.0 版』では,臨床像と診療の実際について,特徴的な皮疹の写真を掲載したり,そのほかの内容をブラッシュアップしました.感染対策についてもわかりやすい記載に修正しています.治療では特定臨床研究の新しい情報を,ワクチンに関してはLC16 ワクチンの臨床研究成果に関する情報を掲載しています.一般向け啓発資料についても最新の情報を追加いたしました.
 本『手引き2.0 版』は,より実際の診療に役立つものに改訂できたと考えています.広く医療現場で参考にされ,医療従事者が安全に診療し,患者へ良い医療が提供できることを期待します.

研究班代表者 中村ふくみ

第1.0 版 はじめに(2023 年12 月26 日発行)

 エムポックスは,1970 年に初めてのヒト感染例がザイール(現在のコンゴ民主共和国)で確認され,中央アフリカから西アフリカで継続的に発生している感染症でした.常在国以外で輸入感染例は少数報告されていますが,ヒト- ヒト感染はほとんど起こらず,発端例からの感染拡大はありませんでした.しかし,2022 年5 月,エムポックス常在国へ渡航歴のある患者が英国から報告され,以降,常在国への渡航歴や患者との接触歴がない患者の報告が欧州やアメリカで急増しました.世界保健機関は,今回のエムポックスの流行が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当すると7 月23 日に宣言しました.国内では2022 年7 月25 日に初めて患者が報告されました.国内での流行は2023 年に入ってから本格化し,3 ~5 月にピークを迎え,最近は散発的な発生にとどまっています.
 今回の流行,再興感染症としてのエムポックスは,多くの患者が男性で性的接触による感染伝播であると考えられています.また古典的なエムポックスと症状や合併症の違い,病態別の治療方針,抗ウイルス薬やワクチンについて新たな情報が国内外から発信されています.本『手引き』では,現時点での情報と診療の実際,届出,感染対策についてできるだけわかりやすくまとめました.
 国内で発生するエムポックス患者の減少に伴い,社会の関心が薄れつつあります.奇しくも『手引き 第1.0 版の発刊直前に,国内初めての死者が報道されました.しかし,低レベルでの感染伝播は持続的に起こっており,医療機関ではエムポックスを考えなかったことによる医療従事者や患者への感染が,社会では男性から女性への性的伝播,患者から同居家族への伝播が危惧されます.すなわちエムポックスは特定のコミュニティに限定された感染症にとどまらず,広く感染が拡大する危険性をはらんでいるのです.
 本『手引き』が医療現場で参考にされ,扇情的な情報に左右されず,良い診療と情報が患者に提供されることを期待します.

研究班代表者 中村ふくみ


関連情報

重要なお知らせ

「エムポックス 診療の手引き 第2.0版」ページを更新しました。

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「カンジダ・アウリスの臨床・院内感染対策マニュアル」ページを公開しました。

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これまでの実績

2024年3月
マラリアのマネージメント(ナイジェリアからの渡航者)
2024年3月
侵襲性髄膜炎の医療従事者の曝露後予防
2024年2月
ケフレックス供給制限に伴う内服抗菌薬
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