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天然痘(Smallpox)

概要

天然痘は、天然痘ウイルス(Variola virus)を病原体とする感染症である。 1980年5月8日にWHOが天然痘根絶を宣言しており、現在天然痘ウイルスは米国とロシアのバイオセーフティレベル4(BSL-4)の施設のみで厳重に保管されていると公表されてはいるが、バイオテロに用いられる可能性のある生物兵器としては、炭疽菌とならんで最も重要な病原体である。本邦では一類感染症に指定されている。

症状

潜伏期は7~19日。臨床的に天然痘は致命率が高い(20~50%)variola major と、致命率が低い(1%以下)variola minor に分けられる。

前駆期

急激な発熱(39℃前後)、頭痛、四肢痛、腰痛などで始まり、発熱は2~3日で40℃以上に達する。小児では吐気・嘔吐、意識障害なども見られることがある。麻疹あるいは猩紅熱様の前駆疹を認めることもある。第3~4病日頃には一時解熱傾向となる。

発疹期

発疹は、紅斑→丘疹→水疱→膿疱→結痂→落屑と規則正しく移行する。水疱性の発疹は水痘の場合に類似しているが、水痘のように各時期の発疹が同時に見られるのではなく、その時期に見られる発疹はすべて同一であることが特徴である。

死亡原因は主にウイルス血症によるものであり、1週目後半ないし2週目にかけての時期に多い。その他の合併症として皮膚の二次感染、 蜂窩織炎、敗血症、丹毒、気管支肺炎、脳炎、出血傾向などがある。

感染経路

感染は人から人への飛沫感染による。ウイルスは咳嗽や皮膚病変から散布される。感染性は皮疹の出現から痂皮が皮膚から剥離するまでである。バイオテロではエアロゾルとして散布されうる。

感染対策

飛沫感染対策が原則であるが、高い致死性と大多数の医療従事者が免疫を有していない点から簡易PPE(N95マスク、フェイスシールト゛、二重手袋、エプロン)を原則とする。エアロゾル発生手技を実施する際にはPAPRを装着する。

隔離解除

疑似症を含め、診療は新感染症病棟で行う。全ての皮疹が痂皮化した後に皮膚から剥離したことを確認し、行政と相談の上で隔離解除を行う。

検査

血液検査では、前駆期で白血球増多、血小板減少がみられることがあり、発疹期では白血球増多がみられることがある。重症例ではDICの所見がみられる。

診断

血液、唾液、水疱・膿疱内容物、痂皮などを検査材料として、PCR検査、ウイルス抗原検出蛍光抗体法、電子顕微鏡によるウイルス粒子の検出・同定などを行う。国立感染症研究所で実施可能である。

治療

現時点で有効性が証明された薬剤はない。 In VitroではCidofovirの有効性も示唆されている。また、有効性が期待されているArestvyr (USAN tecovirimat; ST-246)が Strategic National StockpileとしてCDCに保管されている。

曝露後予防

予防として種痘が有効であるが、天然痘の撲滅が確認された1976年以降、日本では基本的に接種は行われていない。このため、免疫を有さないと考えられる医療従事者が無防備な状況で曝露した場合には曝露後接種の適応となる。可及的速やかに接種することが望ましいが、少なくとも曝露後4日までは有効性が示されている。

保健所への届出

感染症法に基づく1類疾患として、疑似症例もしくは確定症例を診断した際は直ちに保健所に報告する義務がある。

参考文献

マニュアル ダウンロード

診療マニュアル

重要なお知らせ

「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針」ページを公開しました。

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「エムポックス 診療の手引き 第2.0版」ページを更新しました。

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「カンジダ・アウリスの臨床・院内感染対策マニュアル」ページを公開しました。

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